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 2020年 5月 8日 『裏路地の小さなショッピングモール「SARUGAKU」』

マーケットストリート「SARUGAKU」は、東京の代官山にあります。
平田晃久氏の設計により2007年に完成しました。
東急東横線の代官山駅から歩いて3分のところにあります。
白い6棟18区画の建物で構成されている小さなショッピングモールです。
東京屈指の高級住宅街「代官山ヒルサイドテラス」から北へ少し入った裏路地に、小さな店舗が集まっています。
一つの建物の中に廊下を設けて区割りした従来型のショッピングセンターではなく、敷地内に設けられた路地を介して地階・1階・2階と、それぞれの店舗に入る立体型路面店といったところでしょうか。
各店舗の入口は風雨にさらされて機能的には使いづらい構成ですが、人の動きが街に開放された店舗になっています。
日本の「路の文化」が活かされた、シンプルで飾り気のないショッピングモール「SARUGAKU」が、高級住宅街に新たな文化として根付くことを期待しています。

探訪日: 2019 / 12
探訪者: 柳川 賢次
所在地: 東京都 渋谷区

 2020年 3月27日 『「自由」を問いかける建築』

『フランクリン・D・ルーズベルト「四つの自由」公園』は、ルイス・カーン氏により設計され、死後約40年後の2012年にオープンしたルーズベルト大統領の記念公園です。
この公園は、ニューヨークのマンハッタンの東に位置する細長いルーズベルト島の最南端に建設されました。また、このルーズベルト島は、アッパー・イースト・サイドから公共交通機関でわずか5分の立地であるため、大学や病院関係者、国連関係者の寮にも利用され、マンハッタンへの通勤者が多い島です。
敷地形状をうまく生かして、二等辺三角形の平面に正方形の記念碑スペースを幾何学的に配置し、遠近感を創り出したシンプルな計画です。

「四つの自由(Four Freedoms)」とはルーズベルト大統領が表明した民主主義の原則で、
①言論・表現の自由
②信仰の自由
③欠乏からの自由
④恐怖からの自由
のことです。この公園の名前の由来になっています。

ルーズベルト島では、様々なイベントが行われます。多様なバックグラウンド(宗教、国籍、肌の色、言語など)をもつ人たちが集まり、自由に各々の主張をすることができます。また、川岸のすぐ向こう側には、たくさんの高級マンションや超高層ビル群が立ち並んでいます。世界一の富と、圧倒的な軍事力を背景にした安心感があります。

ここに立つと、自由を得ることはとても難しく、とても尊いものだと改めて感じさせられました。この公園は訪れた人々に、憩いと共に「自由」を自問する場所でもあるようでした。

探訪日: 2017 / 11
探訪者: 柳川 実理
所在地: アメリカ ニューヨーク

 2020年 2月 6日 『下町にひらかれた美術館「すみだ北斎美術館」』

すみだ北斎美術館は、東京の下町、両国にあります。
設計は、妹島和世氏により2016年に完成しました。都営地下鉄の両国駅から歩いてて7・8分のところにあります。三方は道路に面し、遊具のおかれた児童公園に開かれた美術館となっています。

開かれた美術館と称していますが、建物は閉鎖的で金属の大きなオブジェといったところでしょうか。1階のアプローチ動線が三方の道路と外部通路で公園に開放されて繋がっています。四方からのアプローチは三角形のスリットで構成され、壁面の微妙な折れ具合と相まった造形を創り出しています。館内に取り込むべき環境が無い場所につくる一つの手法としての内包型の建築といえるでしょう。

北斎の生誕地に、北斎の優れた構図やトリッキーな描写力を、現代建築で表現した作品だと感じました。
動線計画については設計者のわりきりが良すぎて、来館者・運営者のどちらにも使いづらい建物になってしまったように思われます。

北斎美術館としては、企画展示(原画)と常設展示(レプリカ・アトリエ模型等)があり、北斎の世界を満喫することができました。
先人が残したすぐれた遺産を、地域の交流や活性に活かされた秀作ではないでしょうか。

探訪日: 2019 / 12
探訪者: 柳川 賢次
所在地: 東京都 墨田区

 2018年 4月12日 『モニュメント建築』

ニューヨーク、ワールドトレードセンターの隣接地に建設された『オキュラス』は、トランスポーテーションハブ(駅舎)及びショッピングモールがある複合施設です。オキュラスとは、ラテン語で『目』という意味だそうです。 2016年にスペインの建築家 サンティアゴ・カラトラバにより設計されました。

空に向かって飛び立とうと翼を広げた鳥の骨格のような外観で、平和の象徴である白い鳩のようにも見えました。
この特徴的な骨格が、そのまま建物の構造になっています。意匠が構造であり、構造が意匠でもあり、どれが柱なのか梁なのか分からないデザインになっています。
建物の中心にある地下のホールには、天空から光がふりそそぎ幻想的で、その荘厳さは教会の礼拝堂を感じさせます。
この巨大な施設は、店舗数が約150あり、毎日の通勤による駅利用者が約30万人、年間で約1500万人の観光客が訪れ利用しているそうです。

近代建築(モダニズム建築)は、機能主義、合理主義の建築であり、19世紀以前の様式建築やモニュメントにまとわりつく権力性や顕示性を否定することから始まっています。
今回訪れたオキュラスは、現在の建築になかなかない、機能性より、建物の形やその存在に大きな意味のある、建築だと感じました。

探訪日: 2017 / 11
探訪者: 柳川 実理
所在地: アメリカ ニューヨーク

 2018年 1月13日 『経済的合理性に裏打ちされた建築』

ハイラインは、ニューヨークのマンハッタン南西側にあった高架貨物鉄道跡を公園に転用した再開発事業です。
トレンディーなショップやレストランが立ち並ぶミートパッキングエリアから、アートギャラリーが並ぶチェルシーという街までの約20ブロックにも及ぶ長い公園です。現在では、年間訪問者数がメトロポリタン美術館に次ぎ2番目の440万人と、ニューヨークを代表する観光スポットです。

地上約10mの空中庭園の遊歩道からニューヨークの街を眺められ、所々にベンチや劇場型の展望エリアが設置されています。また、低く抑えられた植栽のデザインが統一され、魅力的な植栽計画でありながらも周辺の風景を損なわない配慮がなされています。
そして、何よりも感動したのは、ニューヨーク市長の鉄道撤去の決定を「覆している」ことです。この背景には、ハイラインの保存および運営活動を行っているフレンズオブハイラインが行った、再開発を行うことで生まれる不動産価値の向上、緻密な施設の維持・管理計画、ボランティアによる積極的な利用・運営など、中長期計画の明確な提示があげられます。

活動の第一歩は、「思い」だと思いますが、「思い」だけでは活動を継続することができません。活動の継続には、必ずシステムが必要です。

ハイラインを訪れてみて、新たな施設が周辺環境に及ぼす影響を考慮した、維持、管理、運営のシステムがうまく経済にリンクすることが非常に重要だと改めて感じました。

探訪日: 2017 / 11
探訪者: 柳川 実理
所在地: アメリカ ニューヨーク

 2017年11月17日 『1次産業(資源)×2次産業(加工)×3次産業(流通・販売) =6次産業』

白州蒸留所は、サントリーウイスキー誕生50周年を記念して1973年、山梨県北杜市白州町に建設されました。蒸留所の一部は、ウイスキーの製造工程を見学できるように計画され、見学ツアーやウイスキーを美味しく飲むレクチャーも受けることができます。また、ウイスキー博物館が併設されており、ウイスキーの歴史なども学べます。

ウイスキーの生産地にこの場所が選ばれたのは、南アルプスの山々をくぐり抜けきたミネラルを含むキレの良い軟水を確保できることが大きな理由だったようです。その為に、自然豊かな広大な土地の確保、及び維持管理を続けているそうです。

限られた資源の中でどう豊かな生活をおくるかを考えてみると、高付加価値化が一つの方法であると思います。モノの値段を上げるのではなく、商品の取り巻く環境(ストーリー)を販売することで、モノに新たな価値を付加できます。 サントリーは、飲料品メーカーの仕事を『飲料品を製造する』から、『資源の生産から消費者の口へ届くまでのストーリーを販売する』に変えたのではないでしょうか。

建物を生活資源と定義してみると建設産業は一次産業だと思います。今回、白州蒸留所を訪れてみて、建築家の仕事もどうあるべきなのかを考えさせられました。

探訪日: 2017 / 05
探訪者: 柳川 実理
所在地: 山梨県 北杜市

 2017年10月31日 『森の中の美術館「クレラー・ミュラー美術館」』

クレラー・ミュラー美術館は、オランダの中央部、オッテルロー村にあります。
設計は、オランダの建築家ヴィムG・クイストにより1977年に完成しました。

アムステルダムの駅から鉄道で1時間、バスを乗り継ぎ1時間の小旅行です。 デ・ホーヘ・フェルウェ国立公園の中にこの美術館はあります。

森の中にさりげなく置かれた現代彫刻に招かれながら、木立に囲まれたまっすぐなアプローチを抜けると、ミースやジョンソンの代表作品「ガラスの家」を彷彿させるシンプルで透明感のあるデザインが目に飛び込んできます。

この鉄とガラスの建築は、内外を一体化させた開放的な緑の美術館です。 従来の閉鎖的な展示空間を伴った、建築そのものが強い個性を放つ美術館ではなく、森の木立と同化することで、展示作品をより良く鑑賞できる空間となっています。森の中でゴッホの「糸杉と星の見える道」に出会えます。

まさに「森の中の美術館」でした。

探訪日: 2006 / 06
探訪者: 柳川 賢次
所在地: オランダ オッテルロー

 2017年 9月29日 『「見せ方」から「見え方」へ』

「国立新美術館」は、2002年に黒川紀章 氏によって設計され、2007年に開館しました。そして、国立美術館で唯一コレクションを持たず、常設展示を行わない美術館です。展示会の開催・情報収集およびその公開・教育普及を主な目的とした新たな美術館のあり方を示しています。

この建築物の大きな特徴としては、なんと言ってもその外観です。垂直に設けられたガラスの壁面と水平に設けられたガラスのルーバーで外壁のカーテンウォールが構成されており、その外壁が複雑な自然曲線(フラクタル曲線)になっています。そして、水平のガラス板には、水玉のドット模様がエッジングされており、その模様により日射遮蔽を行っています。 内部の特徴としては、ロビーに配置されている大きな逆円すい型の鉄筋コンクリートのコーンがあげられると思います。床面積が上に行くほど広がり、下に行くほど狭くなる形状の特徴を生かしながら、上にレストランを配置し、下のロビー・スペースを極力邪魔しない配慮がなされています。また、吹抜けのある大空間にあっても、床に吹出し口を設けることで、人の利用域のみを空調するとても効率的な設備計画となっています。

昨今、写真の専用のアプリを利用して撮影するなど、「見せ方」の工夫が盛んになっていますが、何か違和感を覚えます。 モノの「見せ方」を変えるのではなく、モノの「見え方」を変えることでそのモノの新たな特徴を発見することや、そのモノの価値を再認識できることに意義があるように思います。

今回、国立新美術館を訪れてみて、利用者や自然環境に配慮しながら、いろいろな企画が実現できる場になっており、モノの「見え方」の重要性に気づかせてくれるすばらしい建築物であると感じました。

探訪日: 2016 / 04
探訪者: 柳川 実理
所在地: 東京都 港区六本木

 2017年 8月18日 『自動車が創り出す物語』

メルセデス・ベンツ博物館は、シュトゥットガルトの郊外にあります。設計は、オランダの建築家ユニット ベン・ファン・ベルケンとカロリン・ボスにより2006年に完成しました。

建物は9層で内部は二重らせん構造になっていて、各フロアーはゆるやかなスロープでつながっています。 入館者はまず、近未来を体感しながらエレベーターで最上階まで運ばれます。 到着すると、まるでタイムマシーンの扉が開かれたように自動車の創成期が目の前に現われます。らせん状の経路(スロープ)に沿いながら自動車が創り出す時間旅行が始まります。 それぞれの展示物(自動車)固有の技術や歴史、伝統を展示し、あらゆる角度 (上下左右)から眺めることが出来ます。その配置や照明などの工夫も素晴らしい。

スロープが創り出す連続空間を進むうちに、人はいつのまにか展示物の前を通り過ぎます。展示物は(自動車)は動かず、動くのは人間です。

過去から現代そして未来へと、これからも絶えまなく続くであろう「自動車が創り出す物語」は、「人間が創り出す物語」そのものではないでしょうか。

探訪日: 2015 / 01
探訪者: 柳川 賢次
所在地: ドイツ シュトゥットガルト

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